木の香りで生活環境も快適に
森林浴をすると、森の緑が目に優しく、樹木のほのかな香りで気分を爽快にしてくれるでしょう。
これは森林から放散される成分「フィトンチッド」が、気分が安らぐ状態をつくりだすためです。
「フィトンチッド」は、植物がたえず侵入しようとする微生物から身を守るために作り上げたもので、抗菌性や消臭効果をもち、環境を浄化する働きがあるのです。
五感にかかわる自然由来の刺激が、生態系に及ぼす影響を脳活動や自律神経活動(血圧、脈拍数等)を指標として調べた調査によると、例えばスギ・ヒバ材の香りや木目は人をリラックスさせる効果があることがわかっています。
住宅などにつかわれる切られた後の木にも様々な化合物が含まれ、その木特有の匂いをつくり出しています。
それらの化合物は匂いだけでなく、働きも異なります。
木の香り成分はいわゆる揮発性の成分ですが、水とは異なり長く木材中に保たれます。
かすかに匂う木の香りがストレスをやわらげ、リラックスさせたり疲労回復に効果があることが、血圧やストレスホルモンなどの測定によっても明らかにされています。
また、木の香りはダニの繁殖を抑える働きもあります。
ヒノキ、ヒバ、スギ、などには繁殖を抑えるだけでなく、殺ダニ作用もあるのです。
さらにヒノキ、ヒバ材のにおい成分は、院内感染の原因となる病原菌や、ダニやカビに対しても強い繁殖抑制作用のあることが知られています。
特に木の香りとダニの動きの実験では、ヒノキの香りを放った1日後にはダニの行動が抑制され、スギの香りは3日後に、香りの存在しない対照区に比べてダニの抑制効果がありました(図)。
現在のストレス社会において、生体をリラックスさせる木材本来の刺激を上手に取り入れることで生理的に気分を快適にするだけでなく、清潔で快適な室内空間をつくるのにも役立っているのです。
ヒバ・ヒノキ・クスノキ材チップの揮発成分によるダニの行動抑制効果
(Y.Hramatsu and Y.Miyazaki J.Wood Science47(1) 13-17 2001) |
木材は調湿機能をもった「天然のエアコン」である!
徒然草の著者である吉田兼好法師は、日本の蒸暑地域で知られている京都に住んでいました。
その徒然草の中で、
「家のつくりやうは夏を旨とすべし。冬は如何なる所にも住まる。あつき頃、わろきすまひはたへがたきことなり。・・・」
と謳っています。
「夏に備えて開放的な風通しのよい家にしておけば、冬は厚着をしたり、火を使って暖をとるなどして対処できる。だから、家は夏のことを考えて造りなさい」
という意味です。
伝統的な日本の住宅は、開口部を開ければ残るのは柱と梁だけで、使用しているのは、茅・藁・紙・土・木といった自然の材料であり、それらによって室内は涼しげな空間が実現します。
特に、木は吸湿・放湿性に富んだ材料で、湿度が高くなると湿気を吸収し湿度が低くなると湿気を放出して、周りの湿度が一定になるように自動調節する能力をもっています。
主な成分である「セルロース」や「ヘミセルロース」の中に、水分子を引き寄せる部分(水酸基)があり、この部分に水がくっついたり離れたりすることで、木材に調湿機能があるのです。
つまり、木材には周りの温湿度に応じて、ある決まった量の水分を取り込む性質があるということです。
このため、木材を内装にたくさん使うと、部屋の中の湿度の変動は少なくなり、快適に生活することができるのです。
近年は、特に地球の温暖化や都市化によるヒートアイランド現象、住宅の過密化等によって暑さが増しており、県下でも夏季の遮熱対策は大きな課題となっています。
エアコンなどに頼る前に、木をはじめとする自然素材のよさを今いちど見直してみてはいかがでしょうか。
視覚と手触りで感じる木の心地よさ
【視覚】
木に関する視覚実験で、白い壁とヒノキの壁を見てもらい、主観的な評価を紙に書いてもらったところ、ヒノキの壁では抑うつ感や疲労を感じる人が多く、血圧も低下しています。(図1)
一方、白い壁は抑うつ感や怒りを感じる人が多く、血圧も上昇する結果が出ています。(図2)
(図1)ヒノキ材壁板を見た時に“好きである”と評価したグループの収縮期血圧の低下(兼子知行、宮崎良文他 第48回日本木材学会大会研究発表要旨集 213 1998) | (図2)白壁を見た時に“嫌いである”と評価したグループの収縮期血圧の上昇(兼子知行、宮崎良文他 第48回日本木材学会大会研究発表要旨集 213 1998) |
【手ざわり】
木の触感に関する実験では、スギ材無塗装は、
接触によって一時的収縮期血圧が上昇しますが、
速やかに元に戻り、リラックス状態になるという結果が
出ています。一方、金属への接触は、ストレス状態に
なることが分かっています。(図3)
参考資料:宮崎 他 第41回日本生理人類学会誌Vol.4 (1999)
「木は温かい」といわれるのはなぜ?
素足でコンクリートやタイルの上に立つと、ヒンヤリとした冷たさを感じます。
これは体温が急速に奪われるためです。
熱を伝えやすいコンクリートなどは、室内の温度が低くなればなるほどその温度もそれにともなって低くなります。
これに対して木材の熱伝導率は石の約1/9、鉄の約1/500と断熱効果が格段に高く、時間の経過にともなう温度の低下がゆるやかです。
足の疲労を軽減し作業効率などを高めるためには、直接手足のふれる床に熱が伝わりにくい木材が最も適しているといえるのです。
木材が熱を伝えにくいのは、コンクリートや鉄とは違ってその構造が細胞の集合体であることによります。
例えばスギの木口断面1平方センチには約4万から30万個もの細胞がつまっていて、それらの細胞には熱を伝えにくい空気が含まれているため、断熱材に匹敵するほどの効果が期待できるのです。
例えば、木造住宅は鉄筋にくらべて一度暖炉等で暖めてしまえば、いつまでも暖かさが持続します。
また、調理用具の取っ手や柄は、鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属では熱が伝わりやすいため、木が使われているのです。
逆に寒い地方では、外に面したガラス戸の枠やドアの取っ手などに木製のものを使い、冷たさが伝わらないようにしているのです。
電子顕微鏡で見た針葉樹の構造 |
木材は衝突のショックを和らげる!
木材は衝突のショックを和らげる!
木材の床には、飛び跳ねたときに足が受ける衝撃を適度に和らげてくれます。
木材に物が衝突したときは、まず表面層の細胞がつぶれ、さらにつぎの層の細胞がつぶれるというように、順次細胞がつぶれていくようになっています。
そしてその細胞は、パイプ状で柔軟に変形します。
このように、木材は衝撃力が加わったときに跳ね返るまでの時間が長くなるのです。
つまり、木材の細胞とその構造によって衝撃力が吸収されるわけです。
人が歩いていて無意識に衝突する速さは、毎秒1.5~3.0m。
また、転倒したときに衝突する速さは毎秒4.0~6.0mといいます。
これは転倒の場合、小錦くらいのお相撲さんがのしかかったのとほぼ同じ力を身体に受ける力に相当します。
固い床材などでは、その何倍かの衝撃力となるのはいうまでもありません。
建物内の階段や床で転んだり、壁などにぶっかって死亡する事故は予想以上に多く起きています。
屋内でも一歩誤れば、危険につながるといえるのです。
こうした危険を防ぐためには、床や階段の表面材料を滑りにくいものにすることも大切ですが、床や階段、壁などを木材にしておけばさらに安心です。
このような配慮は住宅だけでなく、病院、老人施設、公共施設等においても欠かせないものとなっています。
各材料にガラス玉を落とした時、ガラス玉が割れる高さ |
木は室内環境汚染治療の名医
最近の住宅は、高断熱・高気密化、洋風化に伴い、様々な新建材の利用が進んでいます。
これらは省エネルギーの観点、住まい手ニーズの変化、建築コスト削減などの背景によるものです。
しかし新築住宅の入居時やリフォーム後に、新建材等からの様々な化学物質により、頭痛や目がチカチカして涙が出るなどの症状をひき起こす、「シックハウス症候群」の問題がクローズアップされています。
特に、ホルムアルデヒドを多く含む接着剤が用いられている製品が問題です。
ホルムアルデヒドは接着剤が乾く過程で室内中に放散され、それが一定量を上回ると人体に悪影響を及ぼし、発ガン性のあることも指摘されています。
このような室内環境汚染の治療に向けた名医として、木が注目されています。
更に近年では木材の特性を活かした内装材や、化学物質の発生が極めて微量な合板等木質材料も開発されています。
このため、住む人自らがこれらに問題意識を持ち、建て替えやリフォームの際には健康に適切な材料として、木材など自然素材製品を多用することが住環境改善の大きな原動力になると思われます。(図1)
木は健康に良い!
木材は、人の生理面や心理面に良い影響を与えることが知られています。
例えば特別養護老人ホームでの調査によると、木材を多く使用している施設ではインフルエンザにかかりにくい、という結果が出ています。
また、転んで骨折をしたりする入居者も少ないという結果も。
資料:全国社会福祉協議会「高齢者・障害者の心身機能の向上と木材利用-福祉施設内装材等
効果検討委員会報告書」。調査期間は平成9年12月から平成10年1月。
のように、木材が健康に良い影響を及ぼすことは、動物実験でも確かめられています。
マウスを使った実験では、木製の飼育箱で生活するマウスの方が、体重の変化を見ても同様です。
金属やコンクリートの飼育箱より生存率が高い結果がでています。
資料:伊藤他、静岡大学農学部(1987年)